人事の役割は、もはや単なる給与計算や労務管理だけにとどまりません。企業の競争力を高めるためには、人事を経営戦略と深く連携させ、事業成長を加速させるパートナーとなることが不可欠です。ビジョン達成に向けて、どのような人材を、いつ、どこに配置し、どう育成するかといった戦略的な視点が求められており、人事には高い専門性が不可欠です。しかし、こうした複雑で未知の課題に対し、自社の常識や過去の成功体験だけで立ち向かうことは難しくなってきているのではないでしょうか。だからこそ、異業種や他社がどのような人事施策や組織変革に挑戦しているかを知り、新たな知見や視点を得ることが重要になっているのです。
日本能率協会(JMA)が開催している「人事研究会」は、そうした人事の方々に自社における人や組織のあり方を見直してもらうための研修プログラムです。専門家による講義やゲスト講演、チーム研究などを通じて、自身が"目指すべき人事リーダー像"を確立していきます。
今回は、第13期プログラム(2024年度)にご参加いただいたオリックス株式会社の齋藤 俊氏に、このプログラムで得られた気づきやその後の変化を伺いました。
人事の第一線で活躍する方々の生の声を聞ける
―― 現在の業務内容をお聞かせください。
主な業務内容は指名委員会・報酬委員会の事務局担当としての会議運営サポートです。併せて役員報酬制度や幹部社員のサクセッションマネジメントの設計・運用にも携わっています。
入社以来ずっと営業部門一筋でしたが、8年前に人事に異動となり、社員の評価や報酬などの領域を5年ほど手掛けました。その後、今の業務を担当しています。
―― 人事研究会全体を振り返って印象に残っていることは何ですか?
人事の第一線で活躍される著名な方々の生の声を少人数で伺えたことです。大きな刺激となりました。特に印象的であったのは、泊まり込み合宿での企業二社への訪問やゲストスピーカーのセッションです。中でも電通グループのグローバルCHRO(役職は登壇時)・谷本氏のお話は今でも鮮明に記憶しています。セミナーやシンポジウムなどでは一方通行の話になりがちですが、「実際の手応えはどうなのですか」などと双方向にやりとりすることができました。
過去の考え方を柔軟に問い直す姿勢の大切さを知る
―― 人事研究会を通じて得られたことや具体的な変化を教えていただけますか?
視座が一段上がったと感じています。特に学んだのは、人事制度を理論と実務の両面から捉えることの重要性です。どうしてもビジネスの場では実務偏重になりがちですが、理論からも学ぶことの大切さを改めて感じることができました。自身が経験のない領域に関しても最新のトピックに触れることができ、視野が広くなった気がします。
また、各社とのディスカッションを通じて、自社の「当たり前」が必ずしも他社の「当たり前」ではなかったり、他社の「当たり前」が当社においては違和感を感じるものであったりすることに気づけました。人事制度を考える上では個社の文化や過去との整合性を大切にしていくことも理解できるのですが、従来の考え方に捉われずに柔軟に問い直す姿勢や視点を持ち続けなければいけないと感じました。どうしても人事部門は社内で内向的に仕事に向き合いがちですが、こうした研究会活動を通じて外部の知見を取り入れていく必要があると思います。その視点は私自身今も日々の業務に活かせていると感じます。
人事に携わる仲間と率直に議論し、成果を形にする
―― 貴社では人事組織の中でも、現状を変化させていく姿勢が求められているわけですね。
当社では、人事制度の改定は毎年のように行っています。過去はどうだったのか、どういう考え方で意思決定してきたのかを拠り所とすることも多いのですが、それだけに捉われてしまうと新しい仕組みが生まれてこなかったりします。そのため、新しく人事に加わったメンバーの意見にも耳を傾け、良い意見であれば取り入れていくべきだという話は、組織のトップからもよく出て来ます。私たちもそのスタンスを念頭に置いておきながら業務に当たることを心がけています。
―― 他社メンバーの印象はいかがでしたか。
人事経験10年以上のベテランから異動間もない方まで幅広く、業種も商社・メーカー・サービス業など多様でした。皆さん真面目でバランス感覚に優れ、率直な議論を通じて多くの刺激を受けることができました。
―― これまでに類似の研修やセミナーを受講されましたか?
私は、社内の階層別研修プログラムや英語スキルの習得に向けたオンライン学習、外部セミナーなどの受講経験はありますが、このように長期に渡り、何かを体系的に学ぶという研修プログラムへの参加は初めてでした。
―― 人事研究会の魅力や良かったと感じることを教えてください。
二点あります。第一に、モチベーションの高い人事担当者が集まり、長期間にわたりチームで研究成果を作り上げる点(チーム研究)が大きな魅力でした。人事に携わる人たちが、その知見を高めたいと思って参加されているからこそだと思います。仲間と試行錯誤しながら成果を形にする経験は非常に貴重だと感じました。
第二に、プログラムとして洗練されていることです。やはり、JMAさんが長年続けておられる取り組みだからなのだろうと感じました。特にチーム研究の進め方は、ある程度受講生に一任されており、1つのゴールに向かってチームで作り上げていく、まさにゼロからイチを作り出すプログラム構成が有益だと感じました。
チーム研究では相互理解を重視。密なつながりを作る
―― チーム研究は人事研究会の目玉でもあり、プログラムとしても重きを置いています。全体を通じてお気づきになられた点や苦労された点をお聞かせいただけますか?
多様な業界のメンバーとフラットに議論できたことが新鮮でした。特に私が参加したチームは、事務局から提示された「自身の年齢は明かさない」というルールを律儀に守りました。おかげで、相手の意見を尊重しつつもフラットに議論し合える土壌ができていたように思います。
また、毎週の打ち合わせも各社を訪問して、そこで会社紹介をしたり、どういう取り組みをしているのかを説明することで相互理解を深めるよう工夫しました。せっかく貴重な時間を使って皆が集まるので、それを有効活用しようと思ったからです。おかげで議論の密度が高まり、チーム研究では投票の結果、最終報告会で優勝することができました。
もちろん、最終報告会までは簡単な道のりではありませんでした。一番苦労したのは、チーム研究のテーマ設定と方向性の調整でした。紆余曲折を経ましたが、今振り返ってみるとそのプロセス自体も大きな学びになりました。
―― 修了生との交流はその後も続いていますか?
続いています。特にチーム研究で一緒であったメンバーとは東京で皆で集まったり、個別に仕事の相談をしたりしています。長期間共に取り組むことで良い関係を築くことができました。メンバーの中には、合宿で訪問した企業へ個別に訪問してさらにお話を伺った方もいました。せっかくできた繋がりを生かしていこうと意識しているようです。
当社は、これまでも毎年のように人事研究会に参加させていただいていることもあって、経年で他社とのつながりを持たせていただいています。そのため、業務に関することで他社にヒアリングをしたいときは、その伝手を活用して当社から訪問させていただいたり、逆に当社が訪問を受けるケースもあったりします。他社と接点を持つという意味でも、人事研究会は非常に良いきっかけになっていると思います。
人事の知見を深め、自社課題を考える絶好の機会となる
―― 人事研究会の受講をどんな方へ勧めたいですか?また、参加する意義も併せてお教えください。
人事の知見を深めたい方には幅広く勧めたいです。経験者にとっては自社課題に引き寄せて理解を深める機会になり、経験が浅い方にとっては若干負荷があるものの大きな成長につながると思います。
いずれも通常業務と並行するのは大変ですが、自社課題を立ち止まって考える良い機会になると思います。やはり、実務に携わっているとどうしても目の前のやるべきことに追われがちです。そのため、強制的にこうした研究に時間を振り分けない限り、自分が知らなかった部分を調べ、課題の本質を探求することはないと思います。私自身、そうしたスタンスで前向きに臨んだつもりです。
―― 最後に、今後JMAに期待することをお聞かせください。
大変貴重なプログラムをご提供いただきありがとうございました。特にゲストスピーカーセッションなど、第一線の声を伺える機会や一般実務ではなかなか得られない機会をぜひ継続してご提供いただきたいです。普段接点を持ちにくい方の話から得られる学びは大変貴重ですので、引き続きそのようなパートを設けていただけることを期待します。



