日本能率協会が主催する、「エグゼクティブ・マネジメントコース」(以降EMC)は、次代の経営人材を育成する研修プログラムです。経営に関するテーマプログラムと共同テーマ研究、リベラルアーツの学びなどを通じて、経営者に必要な資質を磨いていきます。
今回は、2023年度にご参加いただいたSCSK株式会社の安藤 裕氏に、このコースで得られた気づきやその後の変化を伺いました。
リベラルアーツを通じて豊かな教養の重要性を知る
―― EMCのプログラムで印象に残っていることは何ですか?
リベラルアーツのプログラムで、浄土真宗本願寺派の本山本願寺(西本願寺)寺務方トップである執行長(肩書は当時)安永雄玄氏の講話です。死生観について考えるワークでは「自分が死ぬ間際を想像する」体験がありました。私自身、あまり信心深い訳ではないのですが、自分の今後の生き方や家族・会社の同僚との付き合い方など、多く考えさせられました。あと、京都市立芸術大学 川嶋渉先生のレクチャーではアート思考の話も本当に面白かったです。企業における多様性を育む意味でもアート思考型人材は貴重だと感じました。私のような日頃アートに触れる機会が少ない人間であっても、思わず聞き入ってしまう内容でした。
―― EMCでは、経営者に必要な考え方や意識を身に付けてもらうために、リベラルアーツからの学びを重視しています。
日々の業務に対して、直接的ではないのですが、教養が広がることで、色々な見方ができるようになった気がします。やはり、経営者の方々とお話をしても、皆さん幅広い知識をお持ちです。それらは、リベラルアーツから得ているのであろうと思っています。誰と話すにしても、豊かな教養は持っていた方が絶対良いですからね。なので、EMCのプログラムでさまざまなリベラルアーツを学べて本当に良かったです。
新たな視点と知見の習得により励む
―― コースに参加された後に、ご自身に起きた変化がありますか?
ジャンルを問わず、色々な本をより一層読むようになりました。これは、リベラルアーツを学んだからだけではなく、異業種の優れた方々と議論したことで、「もっと自己啓発をしなければいけない」と考えたからです。部下にも、「とにかく自己啓発をしよう」「日々の業務だけでは視座が低くなるのでダメだ」と口酸っぱく言い続けています。
もちろん、部下に言うからには自らが実践しなければいけないと思い、毎年何か一つ資格を取得しようと自分なりに目標を設定しています。おかげで、私のカバンの中には常に資格に関する本が入っています。
―― 他にも何か変化がありましたか。
グローバルをより意識するようになりました。EMCのプログラムでは世界のダイナミズムを体感するために、海外合宿を行っています。私が参加した2023年はインドに行きました。まさに、工業化と発展途上が入り交じっていて、戦後の日本をイメージさせるものがありました。
そうした世界で痛感したのは、現地の人々の強い生命力です。「とにかく這い上がってやろう」という空気感が伝わってきました。大学にも訪れてみましたが、皆さんすごく一生懸命勉強していて、日本語も堪能。「将来、日本に行ったら3年で社長になりますよ」と真顔で語っていました。私自身は日本の学生からこのような言葉を聞いたことはなく、そのすさまじい向上心は驚くばかりでした。
多様性とは何かを体感する機会に
―― 異業種の参加メンバーとのワークや討議、交流はいかがでしたか?
刺激的でしたね。どうしても同じ会社にいると多少の意見の違いはあっても、東西南北レベルで議論が噛み合わないなどということはありません。基本的には、ほとんどが新卒で入社していて、日々同じ情報に接しているので、似たようなベクトルに向かいます。それが、日本企業の強さでもあったわけです。
ただ逆に言えば、意見や価値観の多様性が失われていると言わざるを得ません。そういった意味では、違う業種の人からすると自分の常識が非常識に見えてしまうということに初めて気づかされました。正直言って、一つのテーマを議論するのに、これほど多様な見方があるのかと…想定を超えていました。これこそが「多様性」なんですね。
―― 多様性の重要性を再認識される機会になったわけですね。
研修終了後に社内で成果発表会が開催され、最終単位で行った「社長就任模擬演説」を、社長をはじめとする経営陣の前でも行いました。その際に、私が宣言したのは、性別や国籍などといった表層的な多様性ではなく、東西南北の意見を出し合って最適解を導いていく、本当の意味での多様性のある組織を作っていきたいという想いです。そういう気持ちにさせてくれたプログラムでした。
―― では、コースに参加して、仕事やマネジメントの仕方は変わりましたか。
そうですね。意識しているのは、部下に質問を投げかけた際に、自分の想像を越えるような答えや全く予想もしていなかった意見を積極的に受け入れるようになりました。実は、以前はそのような意見は「煙たいな」と思っていたのですが、今はむしろ「貴重だ」と思うようになりました。
異質を排除してしまうと、組織はどんどん硬直化し多様性が失われてしまいます。どんな意見も言いやすい雰囲気を作っていかないといけないと自分に言い聞かせています。
個別面談や共同研究テーマからも多くの気づきが得られる
―― メンターとの個別面談はいかがでしたか。
対話の内容が実務的かつ具体的で、面白かったです。メンターの二ノ宮 義泰さんは、すごくポジティブな方でした。私自身、この研修に参加するまでは「社長になりたい」と思ったことはほとんどなかったのですが、「とにかく社長になれ」と発破をかけられました。しかも、社長インタビューが予定されているという話をしたら、「次期社長に期待する3つの要素を聞き出して来て、それを習得しなさい」とアドバイスされました。
他にも、営業のスキルセットはすごく重要だが、それだけではトップになれない。マーケティングやファイナンスなど、会社経営に必要な要素を徹底的に磨いていきなさいとか、社長を演じ切る重要性も教えていただきました。社長としての素質が最初から全て備わっている人はいない。色々な社長を見ながら、どう演じれば良いのかを学んでいくことが大切だと教えられました。
―― チームでの研究活動を通じて構想力を鍛錬する「共同テーマ研究」で印象に残っていることはありますか。
我々のチームの研究テーマは「グローバル企業で活躍する経営者を輩出する社会システムの構築」だったのですが、グローバルエクセレントカンパニーの社長を日本から輩出するには、スキルセットや教育制度、国としての支援制度などがどうあるべきかを、プログラムが終わった後も居酒屋でお酒を飲みながら熱く議論したことを思い出します。スポーツや学術だけでなく、ビジネスの世界でもグローバルトップに立てる日本人を生み出していこうという、皆の熱い想いが伝わってきました。皆、日本や日本人のことが好きなんですよね。そして、何の忖度もなくディスカッションできる機会って、なかなかないですから、貴重な時間でした。
EMCから経営者への道のりがスタートする
―― このプログラムで学んだ経営者としての在り方を、社内で実践していますか。
周囲からも言われるのですが、全社最適で物事を考えられるようになりました。また、EMCの翌年には経営陣と意見交換を重ねながら、2030年のSCSKの在り方を議論する取り組みにも参加させてもらいました。さらに、現在は来年度からスタートする次期中期経営計画の策定にも携わっています。経営者目線でグループ全体の企業価値向上を考えなければいけない機会を与えてもらっており、会社が継続的に成長機会を提供してくれていることに感謝しています。
―― 最後に、今後このプログラムに参加される方にメッセージをお願いします。
必要以上に気構えたりせず、最初から胸襟を開いて積極的に取り組んでいただきたいです。期間中は、大変なこともあるかもしれませんが、9カ月後には必ずや大きな達成感や自信を得られるはず。明るい未来が待っていると伝えたいです。



